DEITOUDA
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2021/06/07
バスジャック
その日、俺が乗るバスに招かざる客が乗車した。



バスって前のドアから乗って中ほどにあるドアから降りるってパターンもあるけど、北海道では中ほどにあるドアから乗って前のドアから降りるパターンの方が多い印象。

要は運賃が先払いか後払いかで違うんだね。



俺が座っていた席は中ほどにあるドアから乗車するとちょうど目の前にある席、のちょっと後ろの席。



俺はスマホで調べものをしていたので、その乗り場で乗ってきた乗客の先頭がサラリーマン風の恰好の男だったのをなんとなく横目で捉えていたもののスマホの画面に集中していた。



その時、なんとなくバスの車内がざわっとした。

少し悲鳴に似た声。いや、完全に悲鳴だったかもしれない。
しかし、あまり声に出してはならないと頑張って抑えてるような。
一人二人の声ではなく、車内全体の客の声といった感じ。

そこでようやく俺は異変に気付いた。



俺の近くに立っていた例のサラリーマン風の男が白い顔をしてバスの先頭に向かっていく。
ときたま振り返り、恐れ慄いた表情を浮かべ、前のドアから下車していった。
しかし、降りてもその場に留まりドアからバスの中を伺っている。



俺はサラリーマン風の男が俺の側を離れた段階でこの不思議な空気の原因がわかった。
サラリーマン風の男が先頭に向かって動き出した瞬間にその男の後ろにヤツの姿を見つけていたのだった。


ヤツは一目見ただけでヤバい状態だとわかる。
チラッと凶器が見えた。
あれで刺されれば命は無いだろう。


ヤツはサラリーマン風の男が先頭に向かうとそれを追うように後を追いかけた。

しかし、サラリーマン風の男がバスを降りると今度は後ろに向かって進み始めた。
乗客を品定めするかのようにゆっくりと。



ヤツが振り返った時にまた悲鳴が聞こえた気がした。
乗客は誰も動けなかった。



ヤツがついに俺の近くに近づいてきた。

ヤツに見つからないように頭を抱えうずくまる俺。



その時、バスの運転手が武器を手に動き出したのが見えた。
その姿はヒーローに見えた。

しかし、下手に動くと逆上したヤツに俺が刺されてしまう可能性もある。
俺はガタガタ震えて固まるしかなかった。




ヤツは急にまた振り返って前のドアの方に向かい始めた。
武器を構えた運転手の横を軽々と通り抜けて。



前のドアの辺りでヤツに追いついた運転手が武器でヤツを追い出した。
気が付くと先ほどのサラリーマン風の男がまたバスに戻ってきていた。

客からどっと安堵の声が出る。



こうして招かざる客の恐怖は俺の元から去った。




いやぁ、怖いね。
スズメバチ。